労働人口は過去最大なのに「人手不足」というのはなぜ?

日本の労働力人口(15歳以上人口のうち、労働の意思と能力をもつ人の数)の推移を見てみると、

意外なことに日本の労働力人口は、減っていません。減っていないどころか、史上最大と言っても過言ではないほどに増加しています。

労働力人口は、バブルの絶頂期であった平成元年には約6200万人でした。その後平成9年~10年にかけて約6800万人に達しピークを迎えております。その後は徐々に減少していき、平成24年には6565万人と、いったん底を打っています。

ですが、そこから再び増加に転じ、平成24年以降一貫して増え続けており、平成30年9月にはなんと6877万人に至りました。これは昭和28年以降の労働力調査の統計史上、最大の数値になります。

このような状態となったのは、「シニア」(高齢者)と「女性」の労働者数の増加が要因になっております。

「シニア」についてですが、65歳以上の高齢者の労働力人口は、平成24年には約610万人にとどまっていましたが、平成29年には822万人にまで増え、5年間で200万人以上という爆発的な増加を示しています。

日本における健康寿命は男性72・14歳、女性74・79歳と、世界からみても極めて高い水準にあり、日本の労働者は「高齢になっても健康」という社会背景の下で、高齢期に入った後も長期間にわたり働き続けようとする傾向が見られます。

また、「女性」についてみると、女性の労働力人口は、平成24年には2769万人だったのに対し、平成29年には2937万人となっており、この5年間で約170万人増加しています。この要因としては、女性の未婚化・晩婚化といったことを指摘することができます。

このように、幾つかの社会要因が重なり、今や日本の労働力人口は統計史上最高レベルであり、この統計数値をそのまま見れば、人手不足という現状認識そのものに疑問を抱かざるを得ない。それなのに冒頭で述べたように、昨今日本では人手不足と言われています。それは一体なぜなのか。

その謎を解くカギは、労働力の内訳にあります。ここで注目すべきポイントは「世代」と「職種」です。

全体の労働力人口は数字上は大幅に増加しています。しかし、その中において、顕著な減少を示している世代があります。その世代は、35~44歳の労働力人口です。この世代の労働力人口は、平成23年に1582万人となって以降、人口減少そのものの影響を強く受けて、じわじわ減り続けているのです。

平成29年におけるこの世代の労働力人口は1497万人、6年で100万人近く減っています。
その一つ下の世代にあたる25~34歳の労働力人口も減り続けています。この傾向は人口減少の影響が最も大きいので今後も止めようがないのが現状です。

この世代はいわば「働き盛り」の年代で、さまざまな労働の現場で中核となることが期待される層であるが故にこの世代の労働力が減少するということは、「体力と一定の経験を兼ね備えた中堅のスペシャリスト」がいなくなることを意味します。

それに加え、現在のこの世代は、平成10年代初頭の「就職氷河期」の影響をまともに受けている人が多く、経験値の高い人材の絶対数はより少ないのです。結果として、こうした人材は不足することになります。

また、職種による差も大きいです。先に述べたように、日本の労働力人口増の要因となっているのは、高齢労働者と女性労働者の増加です。この層の労働者に若年・中年の男性労働者ほどの体力はないので、いわゆる現場系の仕事を全面的に代替することは難しいです。ハローワークの統計(平成30年9月)によると、現在有効求人倍率が極めて高いのは「保安」(8・65倍)、「建設・採掘」(4・99倍)、「サービス」(3・56倍)といった職種になっております。「事務的職業」の有効求人倍率が0・49倍と、人余りの状況を呈していることと比べると、非常に対照的な結果ということがわかります。

このように、労働力人口自体は増えているが、職種によって、求める人材像と大きなギャップが生じており、そのことが「人手不足感」をもたらしていることが根底にあるのです。

今はまだ人手不足を感じていない業種も高齢労働者と女性労働者が働けなくなり、世代交代が起きた時日本はどう対応していくのか?